家
いつか家を建てるなら、憧れの大正ロマン薫る洋館みたいに、と思っていた。
建具や家具は深いダークブラウン。
腰壁の上にはペールブルーを、じゅうたんにワインレッドを効かせて。
ステンドグラスを通して彩られた、優しい光が射す穏やかな空間。
アンティークオルゴールの音色も似合うだろう。
花柄のコーヒーカップでお茶を楽しむ私を夢見ていた。
現実はそう上手くはいかないものだ。
立地に魅かれてなんとか手に入れた小さな建売住宅は、白木の床に白い壁紙、陽当たり良好な目映い家。
私の憧れとは正反対だった。
それに、素敵なダークブラウンの家具を買う余裕はなく、白いプラスチックの収納ケースが並び、重厚な猫脚つきの曲線美の代わりにあるのは、キャスターつきの軽快なフットワークだった。
ただ、心機一転して親子ふたり暮らしを初めるには、この明るい家でよかったと今では思う。
女ふたりの心細さも、娘が大学生となり私ひとりになった寂しさも、介護が必要となった母親をひきとりながら仕事を続けたプレッシャーも…全部この明るい家が包みこんでくれた。
陽当たりのよいリビングで、炬燵に入ってごはんを食べる、それだけで少しだけ元気が出た。
実家の柱には、私のきょうだいやそれぞれの子どもたちが身長を刻んであり、もう誰も居ないそこで柱を見つめると、ノスタルジーをおぼえて胸の奥がつんとしてくる。
私の家。
娘をひとり残して行くことになってしまった明るい家。
実家のように壁の落書きや柱の身長も何もないけれど…この白い壁と暖かなリビングには、ふたりで支え合った確かな成長の記録が刻まれている。
少し離れた場所から見守る私。
娘にはこの家で強く、しなやかに生きていってほしいと願っている。
引っ越しの準備で片付けを進める毎日の中で、『どんな家に住むのか』よりも、『その家でどう生きていくのか』の方が大事だとやっと気づいた。
卵がない
お題「大好きなおやつ」
ハンドルネームにするくらい甘いものが好き。
和菓子、アイス、ケーキにチョコレート。毎日のおやつに悩んじゃう。
昨日は何もストックがなかったので、ホットケーキを作ろうとしたら、なんと卵がない…
諦めきれずに小麦粉と牛乳、砂糖を混ぜて。
ふと視界にはプリンの素。
ひらめいた‼️これを入れたらきっと、優しい味と甘い香り。
美味しくできないはずはないでしょう?
それが…ちょっぴり甘くて固い『ザ・粉物』の出来上がりという期待外れの結果に終わったのです。
プリンを作るように、一度火にかければよかったのかも。
何よりGWでおうちごはんが続くのに、卵がないなんて。
素敵主婦になれない冷蔵庫だわ。
今日は大事な卵様を買いに行こう。
ふるさと
今週のお題「好きな街」
ベタベタにベタで嫌になるけど、ふるさとが大好き。
ふるさと…とはいえ、半世紀以上ここから出たことはないけど。
辺鄙な田舎にあった県外の大学へも、電車とバスを乗り継いで通ったし、就職も地元。
経済状況や母の叶えられなかった夢…いつの間にか、母の望むとおりの道を歩くことが私の希望になっていたのかもしれない。
私の好きな街は、大好きな母のいる『ふるさと』だった。
母は数年前に他界した。
大きな哀しみは決して無くならないけど、みなが言うように時間薬が少しずつ癒してくれるのを感じた頃、夫と知り合った。
もう再婚なんて考えていなかったのに。
先に入籍をしたけど、現在も自宅で娘と一緒に暮らしているのは、年度末まで仕事をしていたのと、娘がまだ就職したばかりだから。
でも、もう少しだけ様子を見たら、夫の待つ県外の都市に引っ越しをすることになっている。
今度は夫婦で住むそこが、好きな街になればと思うのだけど、子離れできていない私は、娘をひとりにすることが心配で心配で。
私が居なくなってしまうことで、娘から『ふるさと』を奪ってしまうような気持ちでいる…
でも、3世代にわたる親離れ子離れが、この歳になってやっとできるチャンスなのかもしれない。
母との思い出がいっぱいある街、可愛い娘のいる街、そして生まれ育ったこの街が、いつまでもただただ大好きだと思う。